事業承継・相続お悩み相談 実務に効く!ツールとしての法律(事業承継、相続関係の法律のトリセツ)

事業承継、相続に関連する法律お悩み相談。法律を道具として使いこなす方法を、裁判例などを使って具体的かつわかりやすくご説明します。

株主総会決議がないと役員報酬を返さなければならない!?(最判H15.2.21、東京地判H30.1.22)

小規模の同族会社などでは、株主総会をきちんと開催していないことがよくあります(私の経験では、きちんと開催していない会社の方が多い感じです)。

役員報酬は、本来は定款又は株主総会決議で報酬額を定めないと請求権は発生しません(最判H15.2.21)。定款で定めていることは殆どありませんので、株主総会決議がないと役員報酬の請求権は認められないということになります。自分は役員報酬を受け取っているけど、株主総会決議をしていなかったかも?という方もいらっしゃるかもしれません。

役員=多数派株主の時には、総会決議がないことが問題になることはありません(開催すれば、当然に決議できるので)。問題となるのは、株主が変更になった際です。相続で株主が変更になったり、M&Aで株主が変更になった後に、過去に株主総会がなかったことを理由に、元の役員に対して役員報酬を返還するように(あるいは、役員報酬支払額を損害賠償請求として)請求することがあります。

しかし、上記のとおり役員=多数派株主の際には、当然に株主総会決議をできたわけですから、法律の不知により決議をきちんとしておかなったということが言えます。このように、単に失念していただけなのに役員報酬を返還させるというのは、あまりにも理不尽という感じが致します。

そこで、裁判所は、全株主の同意がある場合は報酬請求権を認めたり、信義則により返還請求は認められないとしたりして妥当な(一般的な価値観に沿う)結論を導いています。

最判H15.2.21は、株式会社の代表取締役が取締役の報酬額を定めた定款の規定、株主総会の決議又はこれに代わる全株主の同意がないのに取締役の報酬の支給を受けたことについて、会社に対する賠償責任を認めたことことから、株主総会がなくとも、全株主の同意があれば、取締役は会社に対する報酬請求権を有すると解されています。そして、下級審は、厳密には全株主の同意とは言えない場合に、その対象を広げています(東京高判H30.6.28,大阪高判H7.5.25、東京地判H27.5.25など)。

一方で、東京地判H30.1.22は、信義則上認めらないとした裁判例になります。

 

しかし、株主総会を開催する手間はたいしたことないので、後から紛争がおきないように、きちんと株主総会決議が必要なものについては,総会決議をしておくようにしましょう!

 

このあたりが法律の面白いところであり、難しいところです。