事業承継・相続お悩み相談 実務に効く!ツールとしての法律(事業承継、相続関係の法律のトリセツ)

事業承継、相続に関連する法律お悩み相談。法律を道具として使いこなす方法を、裁判例などを使って具体的かつわかりやすくご説明します。

M&A契約におけるDDと表明保証の微妙な関係

もう一つM&Aの表明保証関係で。

通常、M&Aをする際、買主はDD(デューデリジェンス)を行います。そこで資料の開示を受けて、簿外債務がないとか確認をしたうえでM&Aを実行するわけです。

そして、売買契約において、表明保証を入れて、買主はさらに契約書で、買収する会社に簿外債務などがあった場合に、売主に損害賠償請求ができるようにするわけです。

 

では、DDで、簿外債務の存在がわかるような資料が仮に開示されていた場合でも、売主は表明保証責任を負わなければならないのでしょうか。

これは結構難問で、かつ、実務家(弁護士)の見解も分かれています。

判例としては、資料が開示されていた場合(ないしは買主が容易にわかるはずであれば)、売主は責任を負わないという傾向が強いです。

代表的なものとして東京地裁H18.1.17があります。同判決は「Xが、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、・・・を発見し、Yらが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、XがYらが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、Yらは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。」としています。

また、これは公刊物には載っていない裁判例ですが、東京地裁H23.4.15は、M&A契約に「本件株式譲渡契約締結日までの間に開示を受けたものを除き・・・が存在しない」という表明保証条項が定められていた事案で、口頭で開示されていたとして、買主の表明保証違反の主張を一部棄却しました。

DDにおいては膨大な資料が開示されることもあり、それすべてに細かく目を通すことは容易ではありません。専門家に依頼することもあると思いますが、費用がかかることになりますし、専門家も全部を確認することは不可能です。

そうなると、むしろDDをせず、表明保証違反を厳しくしておくほうがいいということもありえます。少しおかしな話ですが。

 

このあたりが法律の面白いところでもあり、難しいところです!

 

M&A契約における表明保証違反(東京地裁H28.6.3 東京地裁H27.6.22)

M&A契約における表明保証の重要性は今更説明をするまでもないかと考えます。

しかし、実際に紛争になると

①表明保証違反なのか否か

②仮に表明保証違反があったとして、賠償額はいくらが妥当か

が問題となります。

①については、表明保証違反の対象を正確に契約書に残しておくことにつきます。といっても、限界がありますが、疑義がないように定めておけば、後で問題となることは少ないです。契約書の中に細かく残さないとしても、例えば、メール等で意思確認を行えば、それも裁判になれば証拠になります。

②については、できるだけ賠償額の考え方を契約書の中に入れておくということが考えられます。しかし、これは難しいので、「表明保証違反と相当因果関係のある損害」といった程度の記載になることが一般的です。

 

表明保証違反が問題となった近時の裁判例を紹介します。

東京地裁H28.6.3 

この事件は、株式譲渡契約において、対象会社に簿外債務があることが後からわかった事案で、裁判所は全面的に、原告(譲受人)の請求を認めました。

 

東京地裁H27.6.22(東京高裁H27.12.02 控訴棄却)

この事件は、事業譲渡契約において、譲渡人Yが対象会社甲の現在行っている事業のために必要な行政当局の許認可、免許等は全て適法に取得されていることを表明保証した事案につき、譲受人Xが引渡しを受けた工場のクリーンルームに、消防法等に違反する数量の危険物等が貯蔵され、同法による行政当局の許可を受けていなかっことが表明保証違反にあたるとしてものです。これは妥当な判断だと思われます。

ただし、Xは、Xが消防法違反解消のため要した工事費用全額を請求しましたが、全額は認められず、Xが過大な工事をしたとして、一部のみを認めた事案です。

 

このあたりが、法律の難しいところでもあり、面白いところです!

株主総会決議がないと役員報酬を返さなければならない!?(最判H15.2.21、東京地判H30.1.22)

小規模の同族会社などでは、株主総会をきちんと開催していないことがよくあります(私の経験では、きちんと開催していない会社の方が多い感じです)。

役員報酬は、本来は定款又は株主総会決議で報酬額を定めないと請求権は発生しません(最判H15.2.21)。定款で定めていることは殆どありませんので、株主総会決議がないと役員報酬の請求権は認められないということになります。自分は役員報酬を受け取っているけど、株主総会決議をしていなかったかも?という方もいらっしゃるかもしれません。

役員=多数派株主の時には、総会決議がないことが問題になることはありません(開催すれば、当然に決議できるので)。問題となるのは、株主が変更になった際です。相続で株主が変更になったり、M&Aで株主が変更になった後に、過去に株主総会がなかったことを理由に、元の役員に対して役員報酬を返還するように(あるいは、役員報酬支払額を損害賠償請求として)請求することがあります。

しかし、上記のとおり役員=多数派株主の際には、当然に株主総会決議をできたわけですから、法律の不知により決議をきちんとしておかなったということが言えます。このように、単に失念していただけなのに役員報酬を返還させるというのは、あまりにも理不尽という感じが致します。

そこで、裁判所は、全株主の同意がある場合は報酬請求権を認めたり、信義則により返還請求は認められないとしたりして妥当な(一般的な価値観に沿う)結論を導いています。

最判H15.2.21は、株式会社の代表取締役が取締役の報酬額を定めた定款の規定、株主総会の決議又はこれに代わる全株主の同意がないのに取締役の報酬の支給を受けたことについて、会社に対する賠償責任を認めたことことから、株主総会がなくとも、全株主の同意があれば、取締役は会社に対する報酬請求権を有すると解されています。そして、下級審は、厳密には全株主の同意とは言えない場合に、その対象を広げています(東京高判H30.6.28,大阪高判H7.5.25、東京地判H27.5.25など)。

一方で、東京地判H30.1.22は、信義則上認めらないとした裁判例になります。

 

しかし、株主総会を開催する手間はたいしたことないので、後から紛争がおきないように、きちんと株主総会決議が必要なものについては,総会決議をしておくようにしましょう!

 

このあたりが法律の面白いところであり、難しいところです。

 

小さい優良企業の株価を巡る紛争(株価はどう決まる?)東京地決H27.11.12

世の中には、資本金1億円未満で、優良な企業が多数あります。上場企業のように、誰もが知っているような企業ではありませんが、収益が高いという企業です。そして、そのような企業の多くが、同族企業で、株主が限定されています。

しかし、相続により株が分散されたり、付き合いで出資したり、あるいは従業員持ち株会のようなものを通じて取得するなどした株主がいて、そのような方がいわゆる少数株主になっていることがあります。このような、少数株主が、持株を処分しようとする時に、紛争がおきることが時々あります。例えば、株式取得時には500円しか支払っていないけど、その会社の収益力からすると現在の1株あたりの価格が100万円を超えるようなケースは時々あります。この時、株式を売る側は「100万円でないと売らない!」といい、買う側は「500円でなければ買わない!」ということになり、紛争になるわけです。

この場合、特殊の事情がない限り、強いのは買う側です。売る側が無茶なこと言うのであれば、買う側は「買わない。買わなくても困らない」「他の人に売ってもらって構わない」ということになるのですが、売る側が他の買主を探そうにも非上場会社の株式を買う人はなかなかいません(さらに、定款で、株式の売却には取締役会や株主総会の承認が必要になっていることが多く、簡単には売却できないことが一般的です)。売る側としては、客観的な価値はあ100万円あるのだから、なんとかならないのか考えるのですが、なかなか難しいと言わざるを得ません。

このような紛争について、買う側の主張を全面的に認めたのが東京地決H27.11.12(金融・商事判例1517号54頁)になります。従業員持株会が解散したケースで、一定の手続きを経て会社に買取を求め、その価格決定を裁判所に申し立てました。裁判所は、もともと500円で買い取る旨の規定が持株会の規約にあるのだから500円が妥当としました。

従業員持株会の場合(取引先の持株会なども同じかと思いますが)は、この結論はやむを得ないかと思います。しかし、相続でオーナー株式が分散したようなケースでは、また別の結論もあると思います。

このあたりが、法律の難しいところでもありますが、面白いところです!

 

同族会社の少数株主対策(東京地判H30.3.22)

同族会社の事業承継で、時々問題となるのが少数株主対策です。ある程度の歴史の長い同族会社の場合、相続などを通じて、株式が分散してしまっているケースがあります。少数株主が多いと、会社の重要な意思決定が難しかったりすることもあり、少数株主を整理する必要が出てくることがあります。

このような場合の王道は、当該少数株主と協議をして、一定の金額で譲ってもらうことです。株価が問題となることが多いですが、ある程度客観的な方法で計算した金額で合意をして、譲渡をしてもらうことになろうかと思います。

しかしながら、どうしても譲渡を応諾してもらえなかったり、連絡がとれなかったりするような場合があります。このような場合、多数株主が、議決権株主の3分の2以上を保有している場合、合法的に少数株主を追い出す(=譲渡させる)ことが可能な方法があります(一般的に「スクイーズアウト」と呼ばれています。)。

ここでは、方法などは詳しくは延べませんが、少数株主は譲渡金額を争うことが可能になっています。では、多数株主側が、譲渡金額を下げる手段をとった後に、スクイーズアウトをした場合、少数株主は泣き寝入りをしなければならないのでしょうか?

この点につき、無理やり株価を下げるなどしたうえでスクイーズアウトした多数株主側の取締役には、責任が発生するとした裁判例東京地判H30.3.22です。

ある意味で当然の判断ですが、少数株主も株主であり、株式は財産権ですから、きちんと価値に見合う対価を支払わなければ、責任が発生するということです。多数株主からすると、自分が頑張って価値を上げたのに、少数株主がなんの努力もせずにただ乗りすると感じるようです。しかしながら、もしそうなのであれば、価値が上がる前に整理すべきです。

こういうところが、法律の難しいところですが、面白いところです!

遺産分割で敷金返還債務は相続分で承継される?(大阪高判R1.12.26)

被相続人B(亡くなった方)が所有していた甲建物を貸していた場合、賃借人Aに負っていた敷金返還債務は、どのように相続人に承継されるのでしょうか?

それが、大阪高判R1.12.26(判例タイムズ1474号10頁。以下「本件」といいます。)の論点です。

被相続の債務がどのように相続されるかの原則を確認しておくと、債務は、法定相続分で各相続人が承継するというのが判例です。これが敷金返還債務であっても適用されるとすれば、各相続人が法定相続分で承継するということになります。

一方で、被相続人が所有していた甲建物を相続人が法定相続分で相続するとは限りません。遺産分割で、例えば相続人のうちの一人であるBが甲建物を相続したとします。そのような場合でも、他の相続人であるCは敷金返還債務を承継しなければならないのでしょうか?甲建物は相続しないのに、甲建物の賃借人Aに対する敷金返還債務を負うのは少々おかしい感じがします。

この点、本件の裁判所は、建物を相続した相続人Bが賃貸人になることを前提に、敷金返還債務もBのみが承継するとしました。従来から、不動産が譲渡された場合、賃貸人の地位及び敷金返還債務は新所有者に移転すると解されていました(現時点では、民法改正により、この点は明文化されています)。相続の場合も同様であるとした点に、この裁判例の意義があります。

遺産分割協議をする際、敷金返還債務もきちんと考えて対応しないと思わぬ不利益を受けることがありえますので注意が必要です。

こういうところが法律の難しいところですが、面白いところです!